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turn up [た行]

いまだ『カンパニュラの銀翼』を英訳チェック中です。
ふだん、原稿の進行状況を、ブログにアップしない私ですが、
カンパニュラは既に出版されている話だし、
ここでブログを読まれるかたの大半は、内容を既に御存知かと思うので、気軽に語りやすい。

一冊のあれだけの分量の本を、
一人の訳者が、最初から終わりまで訳しているので、
思い込みによる誤訳が散見されるのは致しかたないこと。
私が自分自身ではぜったい英訳しきれない、豊富な語彙と表現力ですし、
大半はほぼ完璧に近い、美しい英訳。
ただ、なかには興味深い誤訳も見つかるわけです。

わかりやすい例だと。

シグモンドが、屋敷のカンパニュラの花を、
夏になったらミュリエルにぜひ見せたい――と思うシーンで、
《釣鐘草(カンパニュラ)の青紫の花が》
と書いている、この《青紫》が、
《green-purple》と訳されていたりします。
Oh...

日本語では《青々とした》などと、かなりのケースで、
青が本当は緑色を指しているので、
青紫→green-purpleと、深読みしたのでしょう。
わかる、わかる。
しかし、green-purple……緑と紫の花びらって、どぎつい。

ラベンダー色(laveder)とか、藤色(mauve)としても良かったんですが、
カンパニュラの花の色を語るのに、ほかの花の色を引き合いに出すのは、どうなのさ……。
それゆえ青紫色と書いたので、
ここはbluish-purpleと直したりするわけです。
(ちなみに欧米人がいうpurpleは、
日本人がイメージしている紫よりも、やや赤紫寄りな気がします。)

また、厳選して書いた言葉を、あっさり訳されていると、
違うそこはNoooo!
……みたいな、私ならではの、こだわり部分も出てきます。

たとえば、シグがミュリエルの右手から、手袋の裾をめくり上げるシーンで。

そもそも、この訳者の癖なのか、欧米人は一体にしてそうなのか……、
右手とか左手とか、
こっちの腕からあっちの腕にシーツの束を持ち替えた、
などと、わたしが手や腕のことについて細かく書いている部分、
わりと端折ってあります。
右手→hand 左手→hand
右腕→arm 左腕→arm みたいな感じ。
まあそこは、へえそうなんだー……で気にしない。

ただ《ミュリエルの右手から、手袋の裾をめくり上げた》
→Sigmund removed the glove from her...(以下略)

これ、ちがうぞ……! 
remove the gloveだと→手袋を片方取りさる。手袋を片方脱がせる。
(gloves じゃなくてthe gloveだから、片方なのはわかる。)

実際は、手袋を完全に取り去ったのではない。
(そう、シグはあの場でけっして呆気なくすっぽり手袋を脱がせる真似に及んではない。)

ミュリエルの右手の手袋の裾をめくりあげて、
そのわずかな手の甲の素肌に、目を伏せて、キスするんだよ。
その時の二人の距離感と関係性を表す大事なとこ!
脱がすこともできるけど、あえて少しめくりあげ、
そのほうがデリケートで、エロい。
色気が増すから。

めくるというと、flipとかが出て来るんですが、
flipというと、ひっくり返す、ぺろん、ペラんとした感触で、なんか違う。

たぶんturn upだな……(袖口を折り返すような感じ)
Sigmund turned up the hem of the glove from her…(以下略)となるかなあ。

一つ懸念材料の英訳に行き当たると、
しっくりくる、赤ペンを入れるだけの適切だろう英単語をたどりあてるまで、
なかなかに頭をひねります。