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デフォルトのセイフティネット [た行]

先週、身内の野暮用で、
戸籍謄本やら、登記簿謄本やら、名寄帳とかを、遠くまで取りに出向いた。

亡くなった身内が百一歳で、なにしろ当時の事情を知っている人間がもうほとんどいない。
電話だと手間取るし、郵送じゃ嵩張るし、いちいち面倒でもう埒が明かない。
わたしが行って状況説明して、一発で的確にもらってくるべし……
と、遣わされたんである。

わたしはオフィスに勤務しているわけではないので、
……ほら、だって働いてないでしょ、時間に融通きくでしょ、という役目に陥りがち。
……土日も日夜も問わずに働いているともいえるんだがな。

たしかに安易に人に頼める案件でもなかったし、
司法書士に頼むと、いたずらに時間を食うばっかなので、
自分らで出来ることは……と、ガタンゴトンと電車を乗り継いだ。

一時間半あまりで、茨城県にある目的地に到着。
茨城県に行くの生まれて初めてです。

不慣れな場所で、不慣れな用事。
101歳で亡くなった身内の本家があった場所ではあり、いまだに所縁(ゆかり)や名残はあれど、
もはや誰も親戚縁者は近隣に住んではいないのです。

「こちらが最も古い明治の戸籍になります。これより前は、江戸になり戸籍が現存していません」

江戸!? 

そんなんばっか。
亡くなった人は大正生まれですが、その生年等を記した戸籍の《戸主》
いまでいう《筆頭者》から辿りあてないと、
生まれと血筋を証明できないので、こういうことになるのです。

「……すみません。この地番(登記簿に記載されている)から、
実際の番地(地図にある住所)を辿るには、どうしたらいいんですか?」

とか尋ねる私。
専用の地図を見せてもらって、概要を把握。

役場から、現地に出向いて、私なりに視察。
地元の詳しい人に挨拶したり……
身内の用事といえども、わたしは初めて知ることばかりで、探偵みたいな気分です。

タクシーに乗って「本町〇〇〇番地をお願いします」と頼んでも、
「ん? あー、旧市名でいうと、どこら?」
統廃合のおかげなのかな、現在の町名よりも、旧市名がいまだに使われている。
行政の御都合もわかるけど、正直、不都合です。
「……ななけん……町」
「しちけん町ね」

超異邦人のわたしは、観光地でもない場所なのに、思いっきり旅人で、
そんな不安要素の高い、短い滞在の間で、出会った知らない人みんなが、丁寧で親切でした。

東京から水戸に引っ越した知人が、
人が親切、みんなが親切!
と、メールをくれたときには、
……東京だって、そこそこみんな親切だし、日本人はデフォルトが丁重だよ?

……と訝しんでいたのですが、本当に親切だった。茨城。

東京の人間も基本は親切ですが、
もっと投げださないで懇切丁寧に、過不足なく手を貸してくれるかんじ。
呑みこみきれない内容を、「はい? つまり……」と聞きかえせるだけの猶予をくれる。

その分、まずコンビニがほとんど見当たらない。
ほとんど店がない(……あるにはあるんだろうけど、店かどうか一見にしては、判別がつかない)。
ファミレスすら見あたらない。
タクシー乗り場がない。
役場前に一台のタクシーも停まっていない。
流しのタクシーを捕まえようとしても、タクシーが通過しない。
タクシー会社に電話しないと来ない。
タクシー会社に電話しても、うち今、出ちゃったんで……よそをあたってください、と。
傍の人に訊いて、大きいタクシー会社を教えてもらって、またかけるのであった。

高層マンションとかもけっこう建っているので、過疎化ではないんだろうけれど、
地方都市というほど栄えてはおらず、
東京郊外ほど店がない。
初めて訪れる者にとっては、ものさびしいの。

まったく見知らぬ土地で、用事を済まさねばならぬ、心細さ。
不安に囚われるのを払拭せんと、気を張りまくる私。
グーグルアースで下見したのが実際すごく役立ちました。

「そんなんでよく未成年時分から単身アメリカに留学したよね」
とか、
「それでどうして思いついたら突然、海外旅行とかも行くんだろうね」
と言われますが、
もっと違う感触です。

携帯が暗くなり、充電が切れて、至急連絡をつけたいのに公衆電話が見つからない……みたいな。
暗くなると続々店が早じまい……道に迷って駅にもどこにも、たどりつけない。
そんな身近で地味な切迫感に似ている。

全国展開しているチェーン店とかが見あたらない、目印のない場所を、
徒歩で、てくてく……。
日本人で、日本にいるのに、知ってる景色も風景もない。
落ちつき場のない、寂寥感なのですよ。

遠方ってほど遠方じゃないけど異邦の土地で、かえすがえすも親切で丁寧な応対をしてもらって、
本当に助かりました。
親切が倍、しみるのであった。

で、逆に――あの状況下で、もしも悪意のある人間に行き当たり、
あやうい目にあったなら、
精神的なショックも凄いし、とことん逃げ場がないなあと。
親切がセイフティネットなんだな……と。

ちなみに、訪れた土地には、
かつては蔵に刀剣がゴロゴロあった、と小耳に挟んでいた。
ひょっとしたら、ほんまもんの、生刀剣を手にできるのでは!
という下心は、あえなく見事に粉砕されたのだった。

蔵なんて、跡形も無いんじゃないか!
どこに蔵があったのよ、まじで? いつの話。

「いや……おまえのお父さんが子供の時に、お祖母さん(私の曽祖母か)に、
《この蔵の刀剣はあなたにやろうね》と言われてたっていうレベル……」

でも、それ……少なくとも戦後でしょ?
戦時中に闇米と両替せざるをえなかった、ってわけでもなく。どこに消えちまったんです、一体。